ぶたれるって思った瞬間携帯電話が今ほど普及していない頃。ある日、女性のお客さんが来店した。 「私はここの近くの病院で秘書をやっています。 院長先生が休憩時間に使うセカンドルームを探しているのですが。」 ほう、お医者さんですね。探しましょう。 これはなかなか良いぞ、という物件がありました。 秘書さんも納得。 「先生に見てもらいますね!」と図面をお持ち帰り。 翌朝、秘書さんから電話がきました。 「先生が物件みたいそうです。 今日は午後に手術がある為、あまり時間はありません。 午後の○時にこちらまで来ていただけますか?」 即答でOKし、時間までに準備は万端。 そしてその時間迎えに行くと秘書さんが 「先生が少し遅れるそうです。先生は場所を知っていたので、 先に行って現地のエントランスで待ってるようにいわれました。」 という事で二人で現地へ。 マンションは傾斜地にたっており、1階に事務所用のエントランス、 傾斜地の上がった方の3階に住居用エントランスがある。 住居用はオートロックで、事務所用のエントランスから住居階に行くには、 鍵が必要になる造りになっている。 どこで待てば良いのか秘書さんに聞くと「分からない」と。 では3階の住居用にしましょう、と言ったものの心配で、 秘書さんには1階で待機してもらった。 待ってもなかなか来ない。 すると1階から秘書さんと先生がやってきた。 私が「はじめまして」と名刺を差し出し、挨拶しようとした途端、 「何をやってるんだ!どこにいたんだ!俺は時間がないんだぞ! 忙しいんだぞ!」と、わーわーまくし立ててきた。 は・・・? ずっとここにいましたよ、と話をすると、目の前を指差し、 「俺はずっとそこにいた。」 え?すみませんが誰も見えませんでしたが、と説明。 「そこに黒いベンツが止まっていたのが見えなかったのか!言い訳はもういい!」 と拳をふり上げた。それを秘書さんがとめた。 とっても怖かった。今思うと鬼の形相ってこういう顔だな。 部屋に入っても「お前なんかのところで部屋は借りん!」 ちょっと待ってよ。何故怒られなくちゃならないのさっ。 車から降りてくれば済んだことでしょっ。 初対面で顔も知らない人に、しかも黒いベンツに乗ってる人に だれがいきなり「○○病院の先生ですか?」って聞くのさっ! でもここは営業マン。「申し訳ございませんでした。」 深々と頭を下げました。 会社に戻り、上司に報告。 「ご苦労様だったね。そんなヤツほおっておけば良いさ。」 その翌日(だったかな?)。 その物件を管理している不動産会社から電話がきた。 「○○病院からマンションの入居申し込みを頂いたのですが、 にゃじらさんがご紹介して頂いたお客様ですよね?」 その不動産屋さん、業界でも大手さんです。さすがです。 事情を説明すると、 「実は、にゃじらさんを通したくないから直接当社とやりとりしたい、 と病院から連絡がありまして。 当社も、健康診断でお世話になってるんですが、ちょっと偏屈な先生なんですよ。 事情がわかりましたから、当社で契約しますね。 でも、御社の仲介ですから手数料はお支払しますよ。」 って。 私は既に関わりたくないモード全開! で、前述の上司と相談。 「良かったじゃないか。売り上げになって。」 断っちゃだめなのね、やっぱり・・・。 その後、お客さんと顔をあわせずに契約は無事終了。 お金は正直なところもらいたくなかった。 でも仕方ないよね、仕事だもん。 怖いお客さん、いやらしいお客さん、ごくたまにですけどいるんです。 ジャンル別一覧
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